「ねえ、ひろ。今度の休みにお見舞いに行きたいんだけど、具体的な曜日を言ってくれない?」その一言から、私の日常は音を立てて崩れ始めた。夫がくも膜下出血で倒れて二週間、意識が戻ったと聞いて駆けつけたいだけなのに、義理の娘は「土曜日ならいいけど、その日はダメよ」と冷たく言い放った。「どうして私が夫のお見舞いに行くのに、あなたの許可をもらわないといけないの?」と問い返すと、彼女は「勝手なことをしたら…

「ねえ、ひろ。今度の休みにお見舞いに行きたいんだけど、具体的な曜日を言ってくれない?」その一言から、私の日常は音を立てて崩れ始めた。夫がくも膜下出血で倒れて二週間、意識が戻ったと聞いて駆けつけたいだけなのに、義理の娘は「土曜日ならいいけど、その日はダメよ」と冷たく言い放った。「どうして私が夫のお見舞いに行くのに、あなたの許可をもらわないといけないの?」と問い返すと、彼女は「勝手なことをしたら...

「ねえ、ひろ。今度の休みにお見舞いに行きたいんだけど、具体的な曜日を言ってくれない?」

「土曜日ならいいけど、その日はダメよ。別の日にしてもらえる?」

「ねえ、これってやっぱり変だよ。どうして私が夫のお見舞いに行くのに、あなたの許可をもらわないといけないの?」

「そういう約束をしたでしょ。お見舞いは週に一回、私が許可した日だけって。あなたがそうしないと許さないって言うから、そうしたんでしょ。だったら約束を守りなさいよ。勝手なことをしたら本当に許さないからね。お父さんがくも膜下出血で倒れたのは、あんたのせいなんだから。本当なら、あんたなんかにお父さんを合わせたくもないわ」

「そんなこと言われても困るわよ。くも膜下出血は誰にでも起こり得るもので、具体的な原因があるわけじゃないの。私が原因だっていうのは間違ってるわ。お医者さんだってそんなことは言ってなかったし」

「あんたが家で何もせずにだらだらしてるから、お父さんがあんたの分まで働かないといけなくて、そのストレスで倒れたに決まってるでしょ。それなのに、あんたは全然反省もしてないし」

「専業主婦をしてるのは、お父さんと話し合って決めたことよ」

「そんなの関係ないわ。私はここまでお父さんを追い詰めたあんたを許さない。それに、まだ意識が回復したばかりで、喋るのも疲れるんだから。家族しか会わせないようにするべきなのよ」

「それは私だって説明を聞いてるから分かってるわよ。だからこそ、私だって会う資格があるわ」

「あんたは家族なんかじゃないの。途中から我が家に横入りしてきたくせに、偉そうなことを言わないで」

「横入りって、そんな言い方はないでしょ。確かにあなたたちにとって私は再婚相手かもしれない。でも、結婚したんだから家族で間違いないわよ」

「どうせ家事をするからって理由でお父さんに近づいたんでしょ。お父さんは離婚してから、家事と仕事で大変そうにしてたからね」

「そうね、私も力になれればいいなと思ってたわ。でも、二人の大変そうな状況を利用して入り込んだみたいに言われるのは嫌よ。そういうつもりじゃなかったんだから」

「よく言うわよ。働かないで生活するために、私たちに近づいてきたくせに」

「そんなことないって言ってるでしょ」

「仕事もしてない人間に何の価値もないのよ。そのことは自覚してもらいたいわね」

「私は家事をして家庭を支えたいと思ってるのよ」

「そんなの不要よ。誰にでもできることなんだから。とにかく、私の言いつけを守って、勝手にお見舞いに行かないでよね」

「分かったわ。また別の日を提案させてもらうわ」

翌日。

「マナ、弘樹君は意識が戻ったんだろ?もう会いに行ったのか?」

「ええ、意識が戻った日に病院から連絡があって、その時には会ってるわ。でも、そこからはお見舞いに行けてなくてね」

「あれ?なんでだ?専業主婦なら時間の融通は利くんだろう」

「ひろがダメだって言うのよ」

「ダメってどういうことだ?」

「なんか急に、お見舞いに来るなら自分の許可を取れって言い出したのよ」

「なんだそれは。そんなの聞く必要はないよ。妻なんだから、お見舞いに行っていいはずだ」

「私も何度もそう言ったんだけど、全然聞いてくれなくて。勝手に行ったら縁を切るとまで言われちゃってるのよ」

「なんでそこまで?」

「私のことが嫌いみたいね」

「嫌いって…一緒に生活するようになって5年だろ」

「そうなんだけど、やっぱり多感な時期に再婚したし、いきなり母親だと言われても受け入れられないと思うのよ。私も無理やり母親って言わせたりはしてないんだけどね。でも、関係性は全然築けてなくてさ」

「だとしても、お見舞いに自由に行かせないなんてな」

「私だって、意識を取り戻した夫と会いたいわ。でも、ひろとの関係が今以上に悪くなるのも嫌だし。全く合わせてくれないわけでもないのよ。ちゃんと指定したら合わせてはくれるから」

「それもそれで変な話だな」

「そうね。もしかしたら反抗期みたいな感じなのかも」

「だとしても、お前は母としての務めはしっかり果たしてるんだろ」

「自分なりにはやってるつもりよ」

「それにお前は、二人を支えるために仕事だってやめてるしな」

「それは別に関係ないわ。私自身もやめどきかなって思ってたところだったから。バリバリ仕事をしたいわけじゃなかったけど、プライベートな部分は充実してなかったし、やめどきとしてもいいタイミングだと思ってるの。だから、そこは全然気にしてないわよ。見返りも十分すぎるくらいもらったし。それに、やっぱり家に帰って一人は寂しいからね」

「お前が納得してるなら、それでいいんだが」

「いつかはひろと仲良くできたらいいなと思ってるんだけどね。そんなに家族のために尽くしてるのに伝わらないのは辛いわ」

「そうだな」

「いつかはお父さんとも同居できたらいいなって思ってるんだけど、まだまだ難しそうね」

「そんなのは気にしなくていいんだよ」

「だって、一人ぼっちは寂しいよ。今回の弘樹の件だってあるしさ。いきなり倒れるなんて、本当に恐ろしいなって思ったの。だから、お父さんにも近くにいてほしいのよ」

「でも、何度か行かせてもらったが、そっちの家は俺が住めるほど広くはないだろう」

「ここはそうだけど、いいところがあるのよ。向かいにいい感じの家があってね。弘樹もあんなところに住めたらいいなって言ってたから」

「そうか。まあ、でもそっちはあまり考えなくていい。マナは自分の幸せのことだけを考えておけばいいんだよ」

「家族みんなが仲良くできるのが、私の幸せなのよ」

二週間後。

「ひろ、これはあんたの仕業でしょ?」

「何がよ。馴れ馴れしく連絡してこないで。こっちは友達と楽しく遊んでるんだから」

「私の部屋にあった荷物を、家の外に捨てておいたでしょ。どうしてこんなことするのよ。嫌がらせだとしても悪質よ」

「嫌がらせじゃないわ。お父さんに近寄るだけのバカの荷物だから、捨てといたの」

「どういうこと?」

「約束も守れない人間なんて、我が家には必要ないのよ」

「言ってる意味が分からないわ」

「あんた、勝手にお父さんのお見舞いに行ったでしょ」

「え?もしかして、お父さんから聞いたの?」

「ええ、そうよ。私に連絡してきたから」

「どうして…」

「聞きたいのはこっちの方よ。勝手にお見舞いに行くなと、私は約束したはずよ」

「だって、あなたに許可を取ろうとしても、全然いいって言ってくれないじゃない。私は会いたい気持ちをずっと我慢してたのよ。お父さんが今どんな状況か、私だって心配なんだから」

「そんなの、私が報告してやってるでしょ」

「私がしつこく聞いて、ようやく適当に返事をすることを報告とは言わないわ。もっと詳しく知りたいのよ」

「あんたがそんなことを知る必要はないのよ。他人のくせに出しゃばるな」

「私は他人じゃないわ。家族よ」

「あんたがそう思い込んでるだけよ。私たちはあんたを家族とは認めてないから」

「それって、お父さんも当たり前でしょ。普通に考えてみなさいよ。仕事もしないで家にいるだけ。何の生産性もない人間を、どうして愛せると思う?」

「でも、お父さんは私を必要としてくれたわ」

「それは5年前のあの時だけよ。私も高校生になったし、お父さんも稼げるようになった。家事くらい私だってできるし、難しくてもハウスキーパーをお願いできるくらいお父さんは稼いでるからね。つまり、あんたなんてこの家に不必要ってこと。だから今すぐに荷物をまとめて、この家から消えてくれる?お父さんが退院する時には、ゴミ一つない我が家で迎えたいからさ」

「それがお父さんの意思なのか、確認させてもらうわ」

「余計なことをするな。父は入院で大変なの。今は黙ってこの家から消えろ」

「そんなに私が邪魔なのね」

「当たり前でしょ。手術代とか入院費用だってすごく高いみたいだから、お金がこれから必要になるの。そうなったら、あんたみたいな穀つぶしは我が家に置いておけないのよ」

「そう。それがあんたの気持ちなのね」

「分かったら、さっさと出て行け」

十分後。

「ひろ、私が病院に行ったことをひ子に話したでしょう」

「ああ、言ったよ。ひ子がもし勝手に来たら報告してくれって頼まれてたからな」

「私も勝手に来たことは黙っておいてってお願いしたけど、やっぱり血の繋がってる家族との約束の方が大事なのね」

「私は家族じゃないってこと?」

「そりゃそうだろ」

「意識を取り戻してから初めて会ったけど、あなた、人が変わったように冷たかったわ」

「命を取り留めてから、考え方が変わったんだ。俺は自分の人生と家族のことだけを考えるようにしていく」

「そこに私は含まれてないのね」

「当たり前だろ。お前は赤の他人だ。ひ子から出て行けって言われたけど、あれはあなたの気持ちでもあるのよね」

「そうだよ。俺たちの幸せに、お前は邪魔だ。ひ子の将来のためにも環境は大事にしたいからな。俺たちと別れて、そのいい環境が手に入れられると思ったんだ。だから、お前とはもう終わりだ。さっさと離婚してくれ」

「分かった。じゃあ、出てくね」

「やった」

一ヶ月後。

「ちょっと、どういうことなのよ」

「あら、何よ、いきなり。もう私たちは赤の他人でしょ。なんで連絡してくるの?」

「あんたがおかしなことをしてるからでしょ。どうしてあんたが向かいの家に住んでるのよ」

「ああ、もう気づいちゃったの?引っ越しをしてまだ数日しか経ってないのに」

「あんたが向かいの家から出てくるところを見たのよ。どうしてあの家にあんたが住めるのよ」

「引っ越し先を探してたのよ。でも、その時は離婚するなんて考えてなかったから、このことも考えて近くでなるべく広いところがいいなって話してたの。その時に弘樹が向かいの家なんてどうだって言ってたから、不動産屋で話をしてたのよ。ずっと空き家状態で相手がいないって言ってたから、そっちの家を追い出されてすぐに購入の手続きをしたのよ」

「ふざけないで。そんなことできるわけないでしょ」

「なんでよ」

「そこの家はめちゃくちゃ豪邸じゃない?そんな家を買えるお金があんたにあるわけないでしょ」

「いいのよ。それが可能なの」

「何をバカなことを」

「私が結婚する時に仕事をやめたのは知ってるでしょ?」

「ええ、もちろん知ってるわよ」

「あなたには詳しく話してなかったけど、会社員としてやめたわけじゃないのよ」

「どういうこと?」

「私は会社の経営者だったのよ。プログラミングを高校生の時から趣味でやってて、そのノウハウを生かしてプログラミング専門のスクールを始めたの。最初はそんなに注目されなかったけど、小学校の授業に組み込まれた辺りから注目されるようになって、受講者がうなぎ登りになったわ。そこから通信教育なんかも始めて、業績は右肩上がりになったの。そんなタイミングで、私は会社ごと売って家庭に入ることにしたのよ。あなたには黙っておいてほしいってお願いしてたんだけどね」

「なんで?」

「あなたの人生を歪めたくなかったのよ。お金があるというだけで人は変わってしまう。そういう人を私はたくさん見てきたからね。あなたには伸び伸び生活してほしかった。そして、必要な時期が来たら話そうと決めてたの。でも、まさかこのタイミングになるとはね。ちなみに、先月の入院費は私が払ってるからね。離婚の話が出る前に支払いを済ませておいたから。400万の入院費を私が払っておいたの。まあ、高額医療制度を申請すれば後から還付されるけどね」

「変な嘘ばっかり言うな」

「嘘なんかじゃないわ。私は本当のことしか言ってない」

「どうせ、自分の父親に借金でもさせたんでしょう。あんたは家族に甘える天才だからね」

「そんなことないわよ」

「もういいわ。あんたとは話にならない」

五分後。

「おじいちゃん、騙されてるよ」

「はあ?なんだ、急に」

「おじいちゃんが自分の娘に騙されてるから、ほっておけなくて連絡したの」

「もう離婚したんだから、俺たちは無関係のはずだ。変な連絡をしてこないでもらおうか」

「こっちは優しさで言ってあげてるのよ。マナさんに家を買ってあげたでしょ。どうしてそんなことをするのよ。あの人にそんなお金を使ったって意味なんてないよ」

「何をわけのわからないことを言ってるんだ。俺がマナに家を買っただと?」

「そうよ。あの人、とんでもない豪邸に一人で住んでるんだから」

「ああ、そうか。あの家は私が買ったものではない。マナが買ったものだ」

「そんなわけないでしょ」

「あの家がいくらするか知ってるか?三億だぞ。三億。そんなお金を、中小企業のサラリーマンである俺が払えるはずもないだろう。全てマナが出してくれたんだ。私のことを思って買ってくれたんだよ」

「どういうこと?」

「マナはいつか同居したいと言ってくれてたんだ。そのために何度か物件の情報を見せてくれた。その中に、あの豪邸があったんだ。若い頃、妻といつか豪邸で生活できたらいいなと話してたことがあってね。妻は花が大好きで、広い庭付きの家に住んで、その庭を自分が育てた花でいっぱいにするのが夢だと言ってたんだ。そして、それをマナに伝えたんだよ。そうしたらマナは、その家を買うように動いてくれた」

「おじいちゃんのために?」

「そうだ。本当に感謝の気持ちでいっぱいだよ。今は早期退職制度を利用して仕事をやめて、そっちに引っ越しをしようと思ってる。またマナと一緒に生活できるのが楽しみでたまらないよ。そして、妻の代わりにあの庭に色とりどりの花を咲かせようと思ってるんだ」

「じゃあ、マナさんが金持ちだってのは本当なの?」

「本当だよ。マナはすごいやり手だったんだ。それでいて、仕事人間でもあったからな」

「どうしてそんな人が、会社を手放すなんてことを」

「君のためだよ」

「私のため?」

「うちは母子家庭だったんだ。妻を早く亡くしてね。私は仕事が忙しくて、マナの相手をしてやれなかった。あの子はそれが寂しかったんだろう。同じ思いを君にさせたくないと言って、仕事をやめたんだ。再婚した時、君はもう十二歳だったけどな。マナにとっては年齢は関係なかったんだろう。君に一秒でも寂しい思いをさせたくなくて、家庭に入ったんだ。そこまで君たちのことを思ってたのに、まさか追い出されるなんてね」

「だって、私はそんなこと知らなかったから」

「知らなかったのは仕事の部分だけだろ。それ以外のところで、マナは家族のために尽くしてた。それでも感謝の気持ちを抱かなかったのなら、お前たちの精神はどうかしてるよ。そんな人間とマナが別れてくれて、こちらとしては良かったと思ってる。これからは近所で生活することになるが、こちらに関わるのはやめてくれよ」

十分後。

「向かいの豪邸を買ったってのは本当か?」

「ええ、そうよ。別にいいでしょ。それよりも、退院はしたのかしら。それなら色々と財産分与とかの手続きをしたいんだけれど」

「もう退院してるよ」

「ありがとう。それじゃあ、弁護士を交えて話し合いをしましょうね」

「あんな豪邸を買って、金は残ってるんだろうな」

「そんなの、あなたに心配されたくないわ」

「俺が心配してるのは、財産分与の取り分だよ。もしかして、こっちの取り分を減らすために買ったんじゃないだろうな」

「やっぱり、離婚を言ってきたのは財産分与があるからだったのね」

「そりゃそうだろ。お前と結婚したのは金が目的だったからな。それがバレないようにずっと隠してたんだ。お前は本当に俺が愛してるから結婚したと思い込んでたみたいだな」

「そうね。でも、違うってことは分かったわ」

「遅すぎたな。それじゃあ、財産分与でお前の資産の半分はこっちにもらうからな」

「残念だけど、そんなことはできないわ」

「はあ?おいおい、無茶なことをするな。夫婦である以上、離婚したら財産分与をするのは当然なんだよ。五年も夫婦でやってやったんだぞ」

「財産分与を嫌がってるわけじゃないわ。でも、あんたは私が会社を売って得たお金を渡せって言ってるんでしょ?それはできないって言ってるのよ」

「どういう意味だよ」

「財産分与っていうのは、共有財産を分けることよ。夫婦として築き上げたものを分けるってイメージね。でも、私が会社を売ってお金を得たのは、あんたと結婚をする前のことよ。確か、タイミング的には離婚前ではあるけど、結婚前なのは確かだから。つまり、私が会社を売って得た資産は特有財産で、財産分与には含まれないの」

「じゃあ、離婚しても俺は金を得られないのか?」

「そうよ。だって、私は仕事をしてないから。むしろ、あんたの貯金から半分をもらうことになるわ」

「ふざけるな。そんだけ金があるのに、必要ないだろうが」

「必要はないけど、もらわないとね。だって、これが法律上のルールだからさ。財産分与は当然だってあんたが言ってたんだから、きっちり支払ってもらうからね」

翌日。

「マナさん、もうこれ以上父さんをいじめないで」

「どうしたの?私は弘樹をいじめたりしてないわよ」

「お父さんがお金がないって困ってるのよ」

「ええ、そうなんだ。でも、お父さんはたくさん稼いでくれてるから問題ないわよ」

「くも膜下出血の後遺症で、腕にしびれが残ってるのよ。だから、まだすぐには働いたりできないんだって」

「うん、そんな話はしてなかったわね」

「これは嘘じゃないわ。病院に確認したら分かることよ。だから、財産分与はなしってことにしてよ」

「それはお父さんにお願いされたの?」

「私ね、来年大学受験を控えてるの。大学に進学するにはお金がたくさんいるって分かってるよね」

「もちろんよ。いざとなったら、私の資産を使おうかなって思ってたくらいだから」

「だったら、私のお願いを聞いて。そんなことはしなくても問題ないでしょ」

「なんでよ」

「さち子さんって人に稼いでもらえばいいんじゃない?」

「私が何も知らないと思ってた。離婚を突きつけられてから、冷静にあんたたちの言動を振り返ったのよ。いくら私のことを嫌ってても、お見舞いに行かせないなんてやっぱり変だったわ。それで、何かお見舞いに行かせるとまずいことがあるんだろうと思いついたの。それで探偵を雇って調べてもらったわ。そうしたら、弘樹はさち子って女と不倫をしてた。何度もこの人は弘樹のお見舞いに来てたわ。世話を焼いてくれる人みたいで、あなたもさち子さんにはかなり懐いてるって話だったわ。それであんたは、さち子さんがお見舞いに行けるように私のことを排除したのよ。弘樹は意識不明だから、おそらくあんたとさち子さんで話し合ってそうしてたんでしょうね」

「いや、そんなの私は知らないから」

「嘘をつかないでよ。とにかく、あんたたちは不倫の事実を隠して離婚をしたかったんでしょ。慰謝料をけ散らすのが目的だったと思う。でも、残念でした。私はもう証拠をがっちり掴んだから。弘樹とさち子さんに慰謝料を請求させてもらうわ」

「またお父さんからお金を取るの?」

「そうなるわね。しっかりと請求させてもらうわ」

「じゃあ、大学は?」

「そんなの知らないわ。弘樹とさち子さんでなんとかするんじゃない?」

「慰謝料を払うだけで金銭的に進学は難しくなるって、お父さんは言ってたんだよ」

「そう。じゃあ、諦めるしかないわね」

「そんな、お願いよ。私だけは許して。せめて学費だけは払ってよ」

「私にそんなことをする義理はないから」

「家族じゃないの?よくそんなことが言えるわね」

「家族だと私は思ってたわよ。家族のためだと思って、色々とやってきた。でも、それを全て否定したのはそっちでしょ。何を都合のいい時だけ家族にするのよ。家族って、そんな都合良くやめたりするような便利なものなの?」

「お願いよ。私の人生を壊さないで」

「先に壊されたのはこっちだから。自分だけが被害者面しないで」

「お母さん、許して」

「この後に及んで、あんたって子は。はっきり伝えておくわ。私はあんたの母親でも何でもないから。私は家族じゃないの?」

「違うわ。わがままな人間とは呼べないから」

その後、私は弘樹たちに慰謝料を請求しました。それがきっかけで、彼らの生活は一気に崩れていったそうです。

ひ子は経済的な理由で大学進学を断念し、一度は就職したものの無断欠勤を繰り返して解雇。今は働くこともなく、家でだらだら過ごしていると聞いています。かつて人を穀つぶし呼ばわりしていた彼女が、今では誰かに養われる側になっているのですから、これ以上ない皮肉ですね。

さち子さんはと言うと、後遺症で働けない弘樹を支えながら生活を続けていましたが、その負担に耐えきれず、次第に不満を募らせていきました。やがて金のことで大原家のせいにし、警察沙汰となり、二人は離婚。現在は私への慰謝料を支払いながら、ギリギリの生活を送っているそうです。

そして弘樹ですが、離婚後は一人残され、在宅ワークを始めたものの、慰謝料とひ子の生活費を賄うには全く足りず、借金を重ねる日々。このままでは破綻すると分かっていても、目先の生活のために借金をやめられないのでしょう。人を裏切り踏みつけてきた人間は、本当に困った時、誰からも手を差し伸べてもらえない。その現実を彼らが身を持って思い知る日々が続いているようです。

一方で私は、父と二人での生活を始めました。会社を売却した資産のおかげで生活に困ることはなく、父も自分の好きなことに時間を使えるようになり、今はせっせとガーデニングをしてくれています。私自身も独り身となったことで、新たな事業を始めようと動き出しています。家族との幸せな生活は手に入れられました。だから次は、自分の手で多くの人を幸せにすること。それが今の私の目標です。

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