同窓会で、私の席にだけ日の丸弁当が置かれた。彼女はマイクを持って笑った。「負け犬な、あんたにはこれで十分。」40年前、同じように私の弁当を笑い者にした女が、今度は100億の契約の席で、私の前に跪いた。でも、私は何も言わなかった。ただ、彼女が「証拠でもあるの?」と叫んだ時、私はモニターを指さした。あの日の映像が流れた瞬間、彼女の顔色が変わった。そして、私は彼女に言った。「この契約は白紙で。」彼…
同窓会の宴会場で、誠一の前にだけ日の丸弁当が置かれていた。 「やだ、日の丸弁当懐かしい。高校の時のあれでしょ。」 会場がどっと湧いた。笑い声が波のように広がっていく。 「負け犬な、あんたにはこれで十分。」 カラ木さおりがマイクを握って言った。40年前と同じ、あの笑顔だった。 誠一は箸を手に取り、梅干を一口食べた。 「いや、せっかくだからもらうよ。好物なんだ。」 「は?なんで平気な顔してんのよ。」 翌日、誠一は神座に座っていた。同級生の笑顔が凍りつく。 「こちらグループ総水の高村でございます。」 100億円の契約書類を前に、誠一は言った。 「音社とのこの契約をさせていただきます。」 「ま、待って。私たち同級生でしょ。」 「この団はね、始まる前から終わっていたんですよ。あの宴会場であんたが日の丸弁当を笑った時にな。」 弁当一つを笑った代償は、100億円では済まなかった。笑った女王の世界が、音を立てて崩れていった。 — 高村誠一、58歳。古い住宅の角にある一軒屋に、妻と二人で暮らしている。平日の朝食卓には、炊きたての白飯と妻の漬けた梅干があった。 「うん。今年のはいい塩梅だ。」 「お母さんの壺のおかげよ。」 大所の棚に、古い茶色の壺が置いてある。三年前に亡くなった母が、40年以上も梅干を漬け続けた壺だった。今は妻がその漬け方を受け継いでいる。誠一の朝は、どんな一日でもこの白飯と梅干から始まった。一人息子は東京で働き、盆と正月に孫の顔を見せに帰ってくる。静かで穏やかな暮らしだった。 誠一が今何の仕事をしているのか、連れ合いの昔の友人は一人もいない。本人が語らないからだ。聞かれればこう答えるだけだった。 「食べ物に関わる仕事を少し。」 その朝、妻が一枚のはがきを差し出した。 「ねえ、あなた。返事出てないでしょ。」 高校の同窓会の案内だった。卒業から40年の節目。会場は駅前のグランドホテル。 「今年も来てたな。」 「一度くらい顔出してらっしゃいよ。」 「そのうちな。」 「会えるうちに会っておかないと、会えないままになる人もいるのよ。」 誠一ははがきに目を落とした。幹事の欄に、覚えのある名前があった。カラ木さおり。その名前に誠一の眉がかすかに動いた。ただ、誠一の目はその下に並んだ出席者の名前の一つで、もっと長く止まった。 美しこ太。 こ太も来るのか? 40年前のある男の真っすぐな顔が浮かんだ。 「行ってみるか。少し確かめたいこともある。」 「それがいいわ。」 出席の返事を出して二週間が経った。そして同窓会当日の朝が来た。誠一は目立たない灰色の上着を選んだ。値段を主張しない服だった。出がけに、誠一は仏壇に手を合わせた。写真の中で母が笑っている。 「楽しんでらっしゃいな。せっかくの40年ぶりなんだから。」 「ああ、行ってきます。」 晴れた空の下、誠一を乗せたバスが駅前のグランドホテルへ向かっていく。その宴会場で何が待っているのか、誠一はまだ知らない。 — 駅前のグランドホテル三階の宴会場。入口の看板に「卒業40周年記念同窓総会」とある。受付の長机で名簿とペンを並べている男がいた。両脇のくびれたジャケット、薄くなった髪を丁寧に撫でつけている。誠一の顔を見て、男の手が止まった。 「た、高村?高村ったよな。」 「こ太、久しぶりだな。40年ぶりか。元気そうで何よりだ。」 こ太の目が泳いだ。口を開きかけて、その言葉を飲み込む。 「ああ。いや、なんでもない。これ、名札。受付へ任されてるのか。」 「ん、ほら、俺は昔からこういうの、だからさ。」 笑いの形を作った顔だった。誠一は名札を受け取り、こ太の顔をもう一度だけ見てから会場に入った。 宴会場は着席の形式だった。白いクロスの円卓に関が並び、集まった同級生は70人。あちらこちらで名前を確かめ合う声が上がっている。誠一の席は入口に一番近い端の円卓だった。同じ卓の男が誠一の名札を覗き込んだ。 「久しぶり。お、高村。えっと、えっと、ああ、高村。悪い、顔が思い出せなくて。」 「無理もない。」 それきり、誰も誠一に話しかけてこなかった。やがて入口の辺りがにわかに華やいだ。カラ木さおりの登場だった。光沢のあるベージュのスーツに真珠。とても同じ58歳には見えない。取り巻きの女たちが左右を固め、その後ろに中が続く。 「カラ木さん、全然変わらないな。さすがよね。」 「会社の役員になったんですって。」 カラ木は女王のように会場を回り、かかる声の一つ一つに笑顔を返していく。その目は挨拶の間も、相手の服と時計を上から下までなぞっていた。 「ねえねえ、みんな聞いた?カラ木さんって今、100億のお仕事を動かしているんですって。」 … Read more