結婚式場の受付で、私の名前が招待客リストから「印刷ミス」だって消された。 姉は言った。「中卒の女が私の結婚式に来れるわけないじゃん」って。 しかも夫は「空気読めよ」と姉の味方。 学歴も容姿も、嫌われる理由なんて何ひとつ分からないまま追い出された後、私は夫の兄から信じられない電話を受ける。 「理恵が頻繁に出入りしてるのは…なみさんが住んでるそのマンションなんだ。」…

結婚式場の受付で、私の名前が招待客リストから「印刷ミス」だって消された。 姉は言った。「中卒の女が私の結婚式に来れるわけないじゃん」って。 しかも夫は「空気読めよ」と姉の味方。 学歴も容姿も、嫌われる理由なんて何ひとつ分からないまま追い出された後、私は夫の兄から信じられない電話を受ける。 「理恵が頻繁に出入りしてるのは…なみさんが住んでるそのマンションなんだ。」...

式場の受付に立った瞬間、私は奇妙な違和感を覚えた。招待状には間違いなく私の名前が書かれていたのに、受付の女性は「席がない」と言い張ったのだ。

「何かの間違いだと思うので、確認してもらえますか?」

「何も間違いじゃないわ。」

顔を上げると、そこには姉が立っていた。白無垢姿の姉は、私を見る目が完全に冷めていた。

「え、お姉さんから招待状をいただきましたけど……」

「送ったわよ。印刷ミスだわ。消しておいて。」

「いえ、だからもう来ちゃってるわけで……」

「大体さ、考えれば分かるじゃん。私の結婚式に中卒の女が来れるわけないじゃん。」

一瞬、何を言われたのか分からなかった。中卒。確かに私は家庭の事情で高校に行けなかった。でも、それが結婚式の出席資格に関わるなんて、初めて聞いた。

「そんなシステム初めて知りました。学歴によって入場制限があるなんて。」

「お祝儀は置いていきなさいよ。」

私は夫の隣に立っていることを伝えた。すると姉は「あっそ、ならいいわ」と適当にあしらった。

でも、私はその場を引き下がるわけにはいかなかった。腹が立っていたからじゃない。あまりにも理不尽すぎて、逆に冷静になっていた。

「お言葉ですが、お姉さんも中卒でしたよね。」

姉の顔色が変わった。

「はあ? なんであんたが知ってんのよ。」

「夫から聞いたんです。高校の時に悪さして退学になったって。」

「で、それが何だって言うのよ。」

「だったら、学歴を理由に追い出されるのは違うんじゃないかと思って。」

「バカ。」

「はい。」

「私は結婚してから高卒認定を取ったの。あんたとは格が違うの。一緒に住まないで。」

「でもお母さんも中卒ですよね。」

「いちいちうるさいわね。昔の人なんだから別に珍しくないでしょ。」

私はそこで一つの確信を得た。姉は私に学歴の問題なんて全く持っていない。ただ単に私のことが嫌いなんだ。

「正直に言ってください。私のことが嫌いなだけですよね。」

「うん。大嫌い。」

その瞬間、私は完全に諦めがついた。夫の姿が見えないので尋ねると、姉は親族だから控室にいるだろうと適当に答えた。私を放置したまま。

「なるほど。夫に伝言をお願いできますか? この件についてどう思うか、直ちに連絡してって。」

「神父を伝言板に使わないで。……でも今日は気分がいいから伝えてあげるわ。」

「ありがとうございます。では帰ります。」

私は振り返らずにその場を去ろうとした。すると後ろから姉の声が掛かる。

「ねえねえ。追い返された気分は?」

「はい。なんでそんなこと聞くんですか?」

「勉強頑張っておけばよかったって後悔してる?」

「いえ、別に。むしろ学歴など意味がないのだと、改めて実感した次第です。」

「強がっちゃって。親族のみんなも爆笑してるわよ。」

「なぜですか?」

「私が『なみさんはお風呂の水を出しっぱなしにしてるから帰った』って言ったの。」

「嘘じゃないですか?」

「そりゃそうでしょ。中卒だから追い出したなんて言ったら、私が怒られちゃうもん。」

私はただ呆れるしかなかった。姉は自分の行動を正当化するためなら、平気で嘘をつく。それだけが分かった。

「では失礼します。夫への伝言だけお願いしますね。バイバイ。」

私はその場を離れ、式場の外で待った。数分後、夫から電話が掛かってきた。

「姉貴から連絡しろって言われたんだけど。どういうこと?」

「私、追い返された。お姉さんから聞いてる?」

「うん。聞いた。」

「ひどいとは思わない?」

「ちょっとは思ったけど、空気読めよ。主役が嫌だって言ってんだぞ。楽しい式に水を差さなくていいだろう。」

私は信じられなかった。私が追い出されたのに、夫は姉の味方をしている。

「私が何をしたのか自覚がないのよ。学歴のことだけで追い返すなんて、ちょっと短絡的すぎるっていうか。」

「多分、顔じゃね?」

「どういう意味?」

「いや、前に姉貴から『今後親族の集まりに波を呼ばないように』って言われたんだ。なんでか知ってる? 顔合わせの時に、姉貴の婚約者が『弟さんの奥さん、綺麗な人だね』って言ったらしい。事実だけど。」

「それは良くないわね。あなたもよくやるけど。」

「そうだっけ? 町に出れば『あの人可愛くない?』って聞くよね。」

「うん。正直に言ってるだけだけど。」

「本当に私の容姿が原因で式への参加を拒否したの?」

「多分そうじゃないかなと俺は思ってる。」

私はその日のために服を買い、美容室にも行った。それなのに、この仕打ち。しかも夫まで私の味方をしてくれない。

「まあ、家でゆっくりしてろよ。」

「普通さ、あなたの妻だぞ。追い返すなんてあんまりだって、怒るところじゃないの?」

「まあでも、身内の方が大事じゃん。」

その言葉を聞いた瞬間、私はすべてを理解した。この人にとって、私は家族じゃないんだ。

「今、何とおっしゃいました? 家族が大事だろ?」

「そうだよ。涙ってそうだよな。」

「あ、そうですか。私は家族じゃなかったんですね。知りませんでした。」

「いやいやいや、そうじゃなくてさ。過ごしてきた時間が違うって話。今後誰と一番長く過ごしていくかも分からないんだ。」

「あ、そっか。よく分かった。」

「なんだよ。拗ねなくてもいいだろ。」

「もういい。帰る。」

「まだ帰ってなかったのか。いつまでいる気だ。」

「言われなくても帰るわよ。」

私はそのまま家を出た。それ以来、夫とは別居している。彼は私が実家の親戚が貸してくれたマンションに住んでいることを知らない。あえて遠くにいると嘘をついている。

一ヶ月後。突然の電話が鳴った。

「なみさん、突然連絡してすみません。」

「どちら様ですか?」

「賢介です。えっと……どの賢介?」

「夫の兄の……。」

「ああ、お兄さん。なんかまだ慣れないけど。」

「そうです。兄です。どうやって連絡先を?」

「勝手に幸太君に聞きました。ごめんなさい。」

「あ、いえ、それは構わないんですが。どういったご要件でしょう?」

「結婚式のこと、本当にすみませんでした。」

「ああ。いえ、もう過ぎたことですから。」

「親族席の幸太君の隣にいないことに気づいて、理恵に問いただしたら『水を出しっぱなしにした』とか意味の分からないことを言ってたんですが、嘘ですよね。」

「まあ……。」

「僕に対しても、なみさんのことをたまに悪く言うことがあって、気にはなってたんです。」

私は結婚式で聞いたことを思い出し、義兄に尋ねた。

「その件なんですが、お兄さんが私のことを褒めたのがきっかけだと聞いたんですけど。お姉さんの前で私の容姿を褒めたのが気に入らなくて、私を敵視するようになったって。」

義兄は驚いた顔をした。

「ん? 何のお話ですか? 僕もそんなに気遣いのできる男ではないですが、さすがにそこまで無神経じゃありませんよ。」

「じゃあ、違うんですか?」

「幼い頃、父がテレビの女優さんを見ては母に『お前もこのくらいの顔だったらな』と失礼なことを言ってたので、自分はやるまいと心に決めていました。」

「そうだったんですね。じゃあなんでお姉さんは幸太にそんな嘘をついたんでしょうか?」

「こじつけでしょうね。なんか気に入らないというよりは、自分に同情が集まる理由が欲しかったんじゃないですか。見え方が違いますから。」

「でも、嫌われてることは間違いありませんね。」

「まあ、あまり気にしない方なんで大丈夫です。気にかけてくださり、ありがとうございます。」

その電話の後、義兄からさらに重要な話が出た。

「実は、連絡したのはそのことだけじゃないんです。幸太君と別居してるんですよね?」

「はい。」

「あの結婚式以来、大喧嘩になって。私を守ってくれない人と一緒にいても、幸せになれないかなと思うようになったんです。今は駅の裏手にあるコンビニが入ってるマンションに住んでるんですけど、家からも近いのであまり別居してる感じもしないんですが。」

「駅の裏手にあるコンビニが入ってるマンションですか?」

「はい。そうですけど……」

「理恵はよく来ますか?」

「はい?」

「来るわけないじゃないですか。」

「ですよね。……なぜ私の家をご存知なんでしょうか?」

義兄は謝りながら理由を話した。

「あ、すみません。不気味でしたよね。実は結婚後、理恵の外出が多いのが気になって、一度後をつけたことがあるんです。そしたらそのコンビニが入ってるマンションに出入りしてるのが分かったんです。それで何度か見張りを続けていたら、なみさんも出入りしてることが分かったんです。」

私は衝撃を受けた。姉が私のマンションに出入りしている? 一度も会ったことはないのに。

「本当ですか? お姉さんはあそこに出入りしてるんですか?」

「いえ、うちに来たことなんてありません。」

「そうでしたか。でもお姉さんはなんで私のマンションを知ってるんでしょうか? 幸太にすら言ってないのに。」

「これは僕の予想なんですが、理恵はそのマンションに住む誰かに会いに行ってます。それは間違いないです。でも、理恵もあなたもお互いが出入りしてることを知らない。」

「誰に会ってるんですか?」

「分からないです。でも、僕に言えない人であることは確かだと思います。結婚したばかりで秘密を抱えるなんて。」

「はい。だから僕も心配になって、なみさんに頼るしかなかったんです。」

私は義兄の提案を受け入れることにした。幸い、私と姉は結婚式以来接点がない。相手に気付かれずに探るには、私が協力するのが一番都合が良かった。

「協力させてください。式には出られませんでしたが、結婚式を挙げた人が幸せじゃないのは私も悲しいので。」

「優しいんですね。あんな対応をされたというのに。」

「お姉さんというより、お兄さんに対してですよ。」

「ありがとうございます。では一度お会いして打ち合わせできないでしょうか?」

「はい。仕事のスケジュールを調整して連絡しますね。」

数日後、夫から連絡があった。

「お前さ、いい加減機嫌直せよ。」

「無理。」

「別居生活なんて金の無駄じゃん。」

「私が住んでるマンションは親戚が貸してくれてるから三万しか掛かってないし、自分で払える。」

「そういう問題じゃないだろう。」

「それより、この間忘れ物を取りに行ったら、すごい悪臭だった。掃除もできないのね。」

「忙しいんだよ。」

「だから私に帰ってきて欲しいだけでしょ。」

「違う。俺は姉貴から波を守れなかったことを、海の底より深く後悔してるんだ。」

「はい。今ので嘘って分かった。『海の底』とか『地球』とか『宇宙』ってやつを信じないようにしてるの。」

「単なるたとえじゃんか。」

「とにかく、まだ怒りが収まらないし、このまま一緒にいていいかも分からない。」

「せっかく結婚したんだぞ。」

「分かってる。親とか友達とか、たくさんの人に祝福された以上、簡単に離婚するのも違うと思うし、冷静に考えなきゃと思ってるよ。そのための冷却期間でしょ。」

「分かった。その間に俺、変わるよ。」

「私がそう感じたら、また戻れるかもしれない。」

「そうなるよ。頑張るから。」

私はその言葉を信じなかった。もう彼の気持ちが分からなくなってしまった。

それから数日後、義兄から連絡があった。

「なみさん、今ちょっといいですか?」

「お兄さん、どうされました?」

「この間話した時は、幸太君は今住んでるマンション知らないって言ってましたよね。」

「はい。押しかけて来られても困るんで言ってません。あえて遠くにいるって嘘をついてます。」

「いや、実はあれから理恵に探偵をつけたんですけど、その過程で幸太君も同じマンションに出入りしてることが分かったんです。」

私は言葉を失った。夫が私のマンションに出入りしている? 一度も見かけたことはない。

「へ? 一度も見かけたことはないですか?」

「はい。私は出社が10時から19時なので、元々夫の生活リズムとは少しずれはありました。幸太君が出入りしてるのは23時以降。朝は6時くらいにマンションを出ているようです。私が基本家から出ない時間帯です。」

「兄弟で同じマンションに出入りするって、何だろう?」

「さあ、意味不明ですね。」

「調べたところ、レンタルルームとしての登録もなさそうなんですよ。」

「ちょっと不気味ですね。」

「ちなみに、それ何号室か分かりますか?」

「そこまではまだ分からないんですが、ただ5階ってことは判明してます。」

「うちの2階下か……」

「探偵には、幸太君の行動も同時に見張ってもらうよう頼んでおきました。」

「ありがとうございます。費用は半分出させてください。」

「いえいえ、ついでなので大丈夫です。私の兄が探偵やってるので、どれだけ負担になるかは分かってるつもりです。」

「お気遣いありがとうございます。」

「真実が分からないと僕たちも動けないですから、一刻も早く突き止めたいと思います。」

「はい。私も同じ気持ちです。」

それから二週間後。姉から怒鳴るような電話が掛かってきた。

「ちょっと、あんた何してくれてんのよ。」

「さて、どれのことでしょうか。」

「招待客全員に余計な写真を送ったわね。」

「だって、来てくれた人全員に対する裏切りだし。皆さんが渡した祝儀は無駄ですよって伝えたくて。」

「男性と一緒に歩いてただけでしょ。あんな写真送ったら誤解されるじゃない。」

「あはは。あれは第一弾なので、まだまだ証拠ありますよ。」

「何が証拠なのよ。」

「え? お姉さん知ってました? しょっちゅう通ってるマンション、私が住んでるんです。」

「は? 浮気部屋ですか? 随分手の込んだことしますね。確かにホテルなら言い逃れできないけど、マンションなら後から何とでも言えますもんね。」

「あそこは友達がしばらく海外に行くって言うから、たまに使わせてもらってるだけで……。」

「男を連れ込んで浮気していいって言われたんですか? 随分心の広いお友達ですね。」

「だから、そんなことしてないってば。」

「さっき言いましたよね。同じマンションだって。」

「だから何なのよ。」

「せっかく同じマンションにいるんだから、たまには一緒にワインでも飲もうかなと思って、部屋の前に何度か行ったことがあるんです。そしたら、外まで聞こえるような男女の声がすごい聞こえてきて。『これは邪魔しちゃいけないな』って引き返したんです。」

「あんた、まさか録音してるんじゃないでしょうね。」

「それはさすがに盗聴だ何だって言われかねないので、してませんよ。」

「よかった。」

「あ、でもお兄さんと電話しながらだったので、あちらが録音してるかどうかは分からないです。」

「はあ?」

「元々お兄さんが疑って私に連絡をくれたんです。私が同じマンションに出入りしてるものだから、うちに来てるんじゃないかと思ったらしいんですよ。」

「適当に話を合わせておいてくれたら良かったのに。」

「すみません。結婚式で追い返されて以来ずっとむかついてたんで、お姉さんの味方になるなんて発想が1ミリもありませんでした。」

「あんたね……。」

「私、今まで結びつかなかったんですけど、今回真実が分かって点と点が繋がった気がしたんです。」

「何がよ。」

「両家顔合わせの時、私も一緒にいましたよね。その時に何かの流れで私の兄の話になったんです。兄が探偵してるって言った時、お姉さんの顔が若干曇った気がしたんですよ。お兄さんのご両親は興味心々に質問されてましたけど、お姉さんは話題を変えようと必死だった気がして。今思えば、お姉さんにとっての天敵って探偵ですもんね。やっとしっくり来ました。」

「違うって言ってるじゃない。」

「でも、その探偵に全て暴かれたじゃないですか。」

「誤解なの。友達の家で男女で飲むこともあった。あんたが聞いた音声はDVDとかだと思う。」

「認めない場合は、裁判所に判断してもらうしかないみたいですけど、大丈夫ですか?」

「なんでそんな大げさな話になるの?」

「認めて示談にするか、法廷で争うかの二択なんですって。で、裁判は原則公開されるから、みんなそれを嫌がって示談を選ぶんだって兄が言ってました。」

「そんな……。顔合わせの時点で私のことを警戒してたなら、結婚前から関係が続いてたってことですよね。」

「私は被害者なの。あの男に脅されてたのよ。」

「言ってることが違いますね。お相手の男性さんは『本命はあなた。旦那はATM』と言われたらしいですけど。」

「あったの……?」

「お兄さんがですけどね。」

「なんで?」

「慰謝料請求ですよ。弁護士同士で話し合いしたそうです。二度と会わないという条件も付けたみたいなんで、もう連絡取れないと思います。」

「何てことを……。」

「あとはお兄さんと話してください。私は幸太と話すことがあるので。」

「待って。音声は決して……。」

「あ、すみません。もう動画ファイルで皆さんに送りました。」

「くそっ。」

三十分後。夫と私は長い沈黙の後、ようやく話し始めた。

「賢介。」

「もう謝罪とかいいよ。」

「本当に許してくれるの?」

「そういう意味じゃない。許すつもりはないから、うわべの言葉なんていらないってこと。」

「そんなこと言わないで。」

「ATMから大したお金引き出す前に終わっちゃって残念だったね。」

「違うの。あなたを愛してた。」

「はいはい。で、今後の話なんだけど。」

「待ってよ。」

「まずは、しなくて良かった結婚式の費用を返してもらうね。あと、普通に浮気したことの慰謝料。それから新居にかかった費用も返してもらうね。」

「待って。」

「待たない。こっちは手を緩める気はないから。何が違うのか分からないけど、こっちは揃った証拠で淡々と手続きを進めるだけだから。言い訳するんじゃなくて、何もしてない証拠を探しなよ。」

「賢介……。」

「招待客に申し訳ないよ。祝儀もお返ししたいから、そのお金も請求するね。」

「嘘でしょ? いくらになると思ってんのよ。」

「じゃあ僕からは以上。さようなら。」

「お願い。話を聞いて。」

翌日、義兄から連絡があった。

「なんか、姉貴たち離婚することになったらしいよ。」

「ええ。」

「姉貴が浮気してたんだって。何のために結婚したんだって話だよな。」

「そうですね。」

「なみ来なくて正解だったじゃん。」

「そうですね。」

「うん。俺らはあんな風に別れたりしないよな。色々あったけど、俺も反省してるし、やり直したい。いい加減機嫌直してくれないかな。」

私は義兄の言葉を聞きながら、ある確信を抱いた。夫はまだ私がすべてを知っているとは思っていない。

「むしろ、怒りメーターのメモリは振り切れてるんだけど。」

「え? なんで?」

「お姉さん、友達が海外に行ってる間に浮気部屋として使ってたらしいのよ。最低だよな。」

「そうだな。」

「あなたも、その恩恵受けてなかった?」

「は? 何言ってんの?」

「『私が使わない日は使っていいよ』とか言われてたんじゃないの?」

「な、わけないだろ。どこかも知らねえよ。」

「一階にコンビニが入ってるマンション。」

「そんなのどこにでもあるだろう。」

「あなたと女性が腕を組んで入っていく写真があるの。あなたも私と同じマンションに住んでるなんて、思いもしなかったでしょう?」

「嘘だろ……。」

「私の兄がなぜ探偵をやってるか、話したことがあるよね。」

「なんだっけ?」

「うちの父はひどい人だったの。母はたまに帰ってくる父に都合のいいように使われてた。兄や私が『別れなよ』って言っても、『証拠もないし』って笑ってたの。お金さえあれば探偵に頼んで慰謝料もらって、さっさと離婚できたのに、我慢して耐え続けたったの。40歳で病気に負けて亡くなったわ。」

「今、その話は関係なくない?」

「私は、浮気して家庭を壊す人間が許せない。あんな優しいお兄さんを裏切ったお姉さんも、私が一番嫌いなことをやってのけた、あんたもね。」

「ごめん。謝る。本気じゃないんだ。発散というか、ほら、ジムに行く感覚と同じだよ。」

「さて、何のフォローにもなってない。」

「本命は波だけってことが言いたかったの。」

「結構です。今後は勝手にジムだろうとホテルだろうと好きに発散しまくってください。」

「そんなこと言うなって。俺の気持ちはどうなるんだよ。」

「ここに来て自分の心配? さすがですね。姉妹そっくりで驚いちゃうわ。頼む、もう一度やり直そう。小遣いも二万でいいし、飲み会も行かない。家のことは全部俺がやる。掃除も洗濯も食事も。」

「マジで言ってる?」

「え? うん。」

「書面にできる?」

「書けって言うなら……。」

「分かった。じゃあ離婚しないであげる。」

「いや、ありがたいけど、さっきのはちょっと大げさに行っただけっていうか……。」

「ん? どっちなの? 離婚したいのか、再構築か。」

「そりゃ一緒にいたいよ。」

「自分が提示した条件は守れそう?」

「できるだけ頑張るけど。」

「じゃあ、約束破ったら即離婚で。」

「うえ……。」

「うん。悪くないわ。月二万で家政婦雇ったと思ったら安いもんだし。」

「そういう言い方はちょっとどうかな。」

「まずは自分が散々人を傷つけておいて、被害者面するのやめようか。」

「はい。」

「じゃあ、私がそっちに戻るまでに、部屋を全て掃除して。」

「分かりました。」

「ほら、さっさと動く。サボんなよ。」

数日後、私は家に戻った。しかし、そこに広がっていたのは相変わらずのゴミ屋敷だった。「何でもやる」と言った男の住まいとは思えなかった。その後も夫は「仕事が」「姉貴が」「実家が」と言い訳を並べた。

私はその場で離婚届に記入し、すぐに提出した。財産分与はなし。お互いの貯金を持って解散となった。慰謝料は夫と浮気相手の双方に請求し、よほど裁判を避けたいのか、それぞれ三百万円ずつで示談が成立した。

一方、義兄たちも離婚が成立。さすがに義兄が請求した全ての損害を支払わせることは難しかったようだが、慰謝料としては高額の請求で決着がついたそうだ。姉は実家に戻り、朝から晩まで働きながら親に借りたお金を返済する毎日。弟も帰ってきて、二人が同時に実家に戻ったことで、両親は世間体が悪いと頭を抱えているらしい。

私は今、同じ傷を抱えた元義兄と飲み友達になった。お互いの結婚式は絶対に呼んでねと約束している。信じていた相手に裏切られるのは辛いし、傷の回復にも時間はかかる。私だって飲みながら彼の前で何度泣いたか分からない。でも、必ずいつか笑える日が来ると信じて、その間の時間をどう過ごすかは自分次第なのだと、今はそう思えている。

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