「話しかけるな」って、夫に言われたんです。出産して三か月、家では完全に無視され、LINEでしか会話してもらえませんでした。ワンオペ育児で倒れて入院したのに、夫は「体調管理不足だ」と笑い飛ばし、飲み会を優先。隣人の助けでなんとか退院した翌日、家に帰ると夫はまだ帰っておらず、私は荷物をまとめて実家へ向かいました。すると夫が突然、実家に押しかけてきて、母を突き飛ばして骨折させたんです。私は警察に相…

「話しかけるな」って、夫に言われたんです。出産して三か月、家では完全に無視され、LINEでしか会話してもらえませんでした。ワンオペ育児で倒れて入院したのに、夫は「体調管理不足だ」と笑い飛ばし、飲み会を優先。隣人の助けでなんとか退院した翌日、家に帰ると夫はまだ帰っておらず、私は荷物をまとめて実家へ向かいました。すると夫が突然、実家に押しかけてきて、母を突き飛ばして骨折させたんです。私は警察に相...

「ねえ、LINEでは返事してくれるのに、家の中ではどうして無視するの?」

出産してから三か月、夫の陸は家で一切口をきいてくれなかった。

「いきなりなんだよ。お前こそ、子供のことしか見てないじゃん」

「それは当たり前でしょ。無視する理由は何?」

「口を開けば『おむつ変えて』『風呂入れろ』って、うんざりなんだよ」

「は? それが理由で無視してたの?」

「お前の話すことなんて、どうせ『手伝って』ばっかりじゃん」

「手伝ってっていうか、協力ね」

「同じだろ」

「ねえ、今飲み会なんだけど」

「その飲み会、もう少し減らせないかな?」

「なんで? お小遣いの範囲内だし、相手は野郎だけだし。減らさなきゃいけない意味がわかんないんだけど」

「三か月間ずっとワンオペだから、きついんだ」

「育休もらって家にいるくせに、何がきついんだよ。一日中、乳と寝かしつけ、時々おむつ交換。食べる時間も寝る時間もなくて、今にも倒れそうなの」

「効率ある。寝てる間にやればいいじゃん」

「あの子、抱っこじゃないと寝ないのよ」

「音部すればいいじゃん」

「首は座ったけど、腰はまだだから無理だよ」

「じゃあ、抱っこしたままご飯作ればいいだろ」

「そんな危険なことできるわけないでしょ」

「ああ、言えばこういう言い訳ばっかりすんなよ。できないんじゃなくて、やろうとしないからだろ」

「お願いします。協力してください。もう限界なの」

「もう三か月も経ってるのに、そんな弱音を吐くのか。ダメな母親だな」

「まだ出産して三か月だよ」

「お前が出産直後だろうと、働いてる俺の方が疲れてんなよ」

「全部とは言わないから、分担しよう。私としては、皿洗いしてくれるだけでもすごくありがたいんだけど」

「はあ。一家の大黒柱の手を汚す気か」

「むしろ綺麗になるかもよ」

「俺は手が荒れやすいから却下だ」

「じゃあ、なんならやってくれるの?」

「ゴミ捨てならやってやるよ。玄関に出しとけよ」

「え、まとめるところからやってくれないの?」

「なんで出勤前に手を汚さなきゃいけないんだよ」

「出す前が一番手間なんだけど」

「出してもらえるだけありがたいと思え」

「そうだね。ありがとう。じゃあ明日からよろしく」

「たく、できない嫁を持つと苦労するわな。今週ずっと飲み会だから飯いらない。助かるだろう」

「分かった」

「ああ、俺っていい旦那でパパだよな。じゃ、早く寝ろよ」

三日後。

「陸、お願い助けて」

「なんだよ。飲み会ってこの間行ったよな」

「高熱が出て、体中の節々が痛くて、寒気がすごいの」

「え、何? インフル? おいおい、マジか。移すなよ」

「多分違う。胸がすごく硬くて痛いから、乳腺炎かも」

「どっちにしろ、お前の体調管理不足じゃん」

「食べ物には気を使ってたから、疲労のせいだと思う」

「どうしようもないよ。言い訳すんなよね。どう助けろって」

「病院に連れてってほしい」

「それは無理だな。酒飲んだから」

「は?」

「じゃあせめて、星を見てくれない? 熱出ても子供は見れるだろう」

「眠いみたいでずっと泣いてるの」

「抱っこしてやれよ」

「してるよ。でも腰がすごく痛いし、鳴き声も頭に響くし、すごく辛いんだよ。今日は本当に助けて。今夜だけ、流星をお願いします」

「なおさら無理。無理だって。俺が抱っこしたら泣くじゃん。やっぱママじゃなきゃダメなんだって」

「泣かせてもいいから、とりあえず抱っこしてあげて」

「とりあえず座ったまま抱っこしてるんだけど、やっぱり立たないとダメみたいで、もうずっと泣いてて」

「何やってんだよ。近所に迷惑だろう。早く泣き止ませろ」

「うち角部屋だし。お隣さんはママ友で理解あるから、泣いてても気にしないって言ってくれたよ」

「いやいや、隣は俺の会社の先輩が住んでるところでもあるからな。なおさら迷惑かけられねえわ」

「私がちゃんと謝っておくから。だから今日だけお願い」

「今一番いいところだから無理。母親なら自分でどうにかしろよな」

五分後。

「サラ、龍星君ずっと泣いてるね。大丈夫?」

「隣まで聞こえた? ごめんね。すぐ泣き止ませるから」

「あ、いやいや、そんなつもりでLINEしたんじゃないの? 二人が心配でLINEしたのよ。ねえ、本当に大丈夫? 何か困ってるなら正直に言って」

「裕子、ありがとう。実は今、乳腺炎で動けなくて」

「え、それは大変」

「龍星君、抱っこできてないんじゃない?」

「座ったまま抱っこはしてるんだけど、嫌みたいで」

「私が抱っこするよ。だから鍵だけ開けといてくれる?」

「本当にいいの? 迷惑じゃない?」

「お世話になってるんだから、これくらい。じゃあ今から行くから待っててね」

「ありがとう」

翌日。

「検査結果どうだった?」

「一週間の入院だって。ちょっと無理しすぎたみたい」

「そっか。龍星君、どうしよう?」

「私のお母さんに頼んでみるよ。高齢な上に遠方に住んでるから気が引けるけど」

「大丈夫だって。自分の子供のピンチよ。私だったら心配で駆けつけるわ。とにかく、さやのお母さんが来るまでは私が見ておくから」

「本当に何から何までありがとう。すごく助かった」

「そんなのはいいから、まずは自分の体優先しなさい。それにしても、旦那さんはどうなってるの?」

「まあ、なんか忙しいみたい」

「私の夫と同じ部署よね。今は半期じゃないって聞いてるわよ」

「なんか付き合いとかで毎晩飲み会に行ってて、だから夫には頼れないんだ」

「何それ? 自分の奥さんが大変な時に、毎晩飲み歩いてるなんて。何も協力してくれないの?」

「家じゃ会話もしてくれないし」

「無視されてるの?」

「LINEでしか会話してくれないんだ」

「なんで?」

「色々と頼まれたくないからじゃないかな」

「信じられないんだけど」

「でも、ゴミ出しはやってくれるって」

「ゴミ出しなんて家事のうちに入らないわよ。ミルクは? おむつは? 寝かしつけは?」

「それは私の仕事だからって、ノータッチなの? 信じられない。昭和時代の亭主関白の化石か何か? 今は令和なんですけど」

「裕子、私の代わりにそんなに怒ってくれてありがとう」

「私も倒れかけたことがあるから、気持ちはよくわかるわ。育児って、協力する人がいないと孤独で辛いわよね」

「分かってくれて嬉しい。裕子がお隣さんじゃなきゃ、きっと心もダメになってた」

「さやは頑張ってる。だから私はさやの味方よ。何かあったら必ず連絡して。一人で抱え込まないでね」

「本当に裕子には感謝してもしきれないよ」

「感謝なんていいから。龍星君は私に任せて、さやは体を休めてね」

「うん。流星をよろしくお願いします」

「任せて」

五分後。

「陸、仕事中にごめん。実は一週間入院することになりました。龍星は今日だけお隣さんに頼んであります。明日からはお母さんが来てくれるから、よろしくね」

同時刻。

「週一先輩、仕事中にごめん。報告があって」

「いいよ。どうした?」

「実は、極度の疲労で倒れちゃって」

「え、大丈夫なの?」

「とりあえず入院することになったんだって」

「赤ちゃん生まれたばっかりでしょ。どうするの?」

「一日だけうちが見ようと思ってるんだけど、いい?」

「もちろん。あれ、でも陸君は父親だろう。お世話しないのか?」

「それがさあ、聞いてよ。さやから聞いた話、全く何にもしないんだって」

「ええ」

「陸君、職場では『俺が赤ちゃんのお世話全部やってます』って言ってたから、ちゃんとパパしてるんだなって思ってたけど、嘘よ。嘘」

「外面がいいタイプなのね。ちゃんとしてたら、さやが倒れるわけないでしょ」

「そっか。俺の方からもそれとなく聞いてみるよ」

「え、きつく言ってちょうだい」

「角が立たない程度にね」

五分後。

「陸、今いいか?」

「ちょうど営業周り休憩中なんで、大丈夫っすよ。先輩、どうしました?」

「いや、実はさっき妻から聞いたんだけど、奥さん倒れて入院したんだって。世話しないの?」

「心配無いっす。体調管理不足の嫁には、よく言って聞かせますんで」

「本当に心配してるなら、そんな言葉出てこないでしょう」

「愛の鞭っすよ。時には厳しくしなきゃ。それが夫のすることなの」

「俺だったら優しくするけどな」

「それは週一先輩の奥さんがしっかりしてるからっすよ」

「君の奥さんだって十分しっかりしてるけどな。龍星君はどうするの?」

「俺、今日の夜も忙しいんすよ」

「龍星君を思うなら、父親である君が面倒を見るべきだ」

「はあ、ちょっと厳しいというか。君も赤ちゃんのお世話をやってるって言ってなかった?」

「いや、まあ、俺が面倒見ると龍星は泣いちゃうんで」

「泣かれるってことは、面倒を見てない証拠だよ。本当はお世話してないんじゃないの?」

「してますよ。生まれつき相性が悪いんですよね」

「とりあえず今日は俺たちが龍星君の面倒を見るけど」

「マジっすか? ざっす」

「でもね、本当なら父親である君が見るべきだってこと、よく覚えといて」

「うす」

翌日。

「おい、さや、週一先輩に余計なこと言ったろ」

「入院してる私にかける言葉がそれ?」

「医者が直すんだから、心配しても仕方ないだろう。俺が流星の世話してないこと、ばらしたな」

「陸の同僚には何も話してないよ」

「とぼけんな。お前のせいで先輩に怒られたんだぞ。俺の評価を下げるようなことしやがって。大方、先輩の奥さんあたりにでも愚痴ったんだろ」

「子供を預かってもらうのよ。事情くらい話すでしょ」

「おら、やっぱばらしてんじゃねえか。もうお前は、近所のうちのことをよそに話すな」

「弱音を吐くことすら許されないの?」

「そうだ。母親なら強くあれよ」

「陸は何にも分かってくれないんだね。父親がいるのに、一人で赤ちゃんのお世話をする虚しさ。そこにいるのに、何度話しかけても無視されるこの辛さ。私、もう限界だよ」

「じゃあ最初から俺に話しかけるな」

「話すも何も、LINEでしか会話してないじゃない」

「家族としてるんだし、空気読めよ。LINEでも何でも、俺が嫌がることは言うな」

「分かった。じゃあ絶対話しかけない」

「そうしてくれ」

三日後。

「なあ、いつ退院すんの? 今日休みで、お母さん一日中家にいるからきついんだけど」

「さや、実家に帰るよう言っておけ」

「おい、昼間から寝てんのか? いい身分だな」

一時間後。

「なんで返事しないんだよ。主婦の分際で調子乗んなよ。もう知らん。入院費用も自分で払え」

三日後。

「裕子、先日は流星を見てくれてありがとう。おかげで明日退院できることになりました」

「少しは良くなったかしら?」

「うん。もう今すぐにでも龍星に会いたい」

「よかった。でも、このままじゃまた同じことの繰り返しよ。これからどうするの?」

「私、決めたの。もう陸には何も期待しない。話し合いもダメ。『話しかけるな』って言われたよ」

「はあ。何それ? 夫婦なのに話をしないとか、無理よね」

「だから、言われた通り何も話さないことにしたよ」

「じゃあ、お互い無言のままの生活を過ごすの? それは龍星君に悪影響よ」

「うん。だから、龍星のためにも実家に引っ越そうと思って」

「え? それはまた急ね。大丈夫なの?」

「お母さんにはもう言ってあるんだ。退院後、迎えに来てくれるって。で、必要なものだけ持って実家に帰るつもり」

「そう。寂しくなるけど、二人の幸せが一番だわ。どうか向こうに行っても無理はしないで、元気でね」

「ありがとう、裕子」

「そうと決まったら、うちも引っ越しの準備手伝うわ。力仕事はうちの夫に任せて」

「いいの?」

「本当に何から何までありがとう」

「困った時はお互い様よ。明日会えるの楽しみにしてるわね」

「うん。またね」

五分後。

「週一先輩、また仕事中にごめんね」

「いいよ。どうした?」

「実はさやが明日退院なんですって」

「本当にそれはよかった」

「陸はもちろんこのことは知ってるんだよね」

「それが、『話しかけるな』って言われたらしくて」

「なんだよそれ。ひどいな。自分の子供を育ててくれている人に言う言葉じゃない」

「私もそう思うわ。だからもう家を出るんですって。明日帰ったらすぐに荷物をまとめて実家に帰る」

「そうよ。そういうことなら、明日は俺も手伝うよ」

「え、いいの? 仕事は?」

「半日だけ休みを取るよ。さやさんには俺たちも世話になったからな」

「ありがとう。じゃあ明日は笑顔で送り出してあげようね」

翌日。

「さや、まだ帰ってないのか? 今日退院じゃないけ? 飲みから帰ったら、お母さんも龍星もいないんだけど」

五分後。

「なんで龍星のものだけじゃなくて、お前のものまでないんだ。まさかお母さんと一緒に実家に帰ったのか? さや。おい、『話しかけるな』って言ったからか。冗談だって。あんなの間に受けるなよ」

五分後。

「週一先輩、夜分遅くにすみません。起きてますか?」

「ちょうど寝るところだったよ。どうしたの?」

「実は嫁も龍星もいなくなってしまって。警察に捜索願い出した方がいいすかね?」

「その必要はないよ」

「え、何ですか? 行方不明になってるんすよ」

「あのさあ、なんで奥さんと龍星君のことが気になるの?」

「そりゃ気になるでしょう。自分の家族のことっすよ」

「妻から聞いたよ。『話しかけるな』って奥さんに言ったらしいじゃないか」

「確かに言いましたけど、よくある夫婦喧嘩す。そんなに深刻になることじゃないでしょう」

「じゃあ、なんで奥さんと龍星君はいなくなったのかな? それは心当たりあるんじゃないか」

「あ、もしかしたらやっぱり実家に帰ったのかも」

「どこに行ったにしろ、出て行かれるだけの理由が君にあるってことだよ」

「俺、嫁の実家に行ってみます」

「今からそれはやめた方がいい」

「家族のためなら何でもするのが男でしょう。ちょっと行ってきます」

「待って」

翌日。

「よくも私のお母さんを突き飛ばしたわね」

「あのババアが邪魔するからだろ」

「足を骨折したのよ。全治三か月の重症なんだから」

「え、マジ?」

「自分は散々無視しておいて、いきなり実家に押しかけてくるなんて、何考えてんの?」

「お前が勝手に出て行くからだろ」

「だからって、お母さんに怪我させることないでしょ」

「お前がさっさと出てくりゃよかったんだ」

「何をするかわからないのに、出れるわけないでしょ。この件は警察に相談する」

「そんな大事にするな。自分の大切な嫁と子供がいなくなったんだぞ。そりゃ探すに決まってるだろう」

「大切?」

「はあ。なんだよ。口こそ聞かなかったが、見守ってたつもりだ」

「見てただけで、妻と子が幸せになると思ってんの?」

「だって俺が手を出したら、何かと文句言うじゃん。ミルクは温度がどうとか、おむつも時間がどうとか、他にも色々ぐちぐち」

「当たり前でしょ。一人の人間を育ててるんだよ。しかも陸の子供だよ。赤ちゃんを目の前にして、少しはお世話しようとか、そういう気持ちも湧かないの?」

「いや、普通に愛情はあるよ。ただ、汚いのとうるさいのが無理だったんだ。だから、さやに任せてただけ」

「私だって最初から何でもできたわけじゃないよ。できるようにならざるを得なかっただけ。仕事だって同じことでしょ」

「それはそうだけど、育児って金にならないじゃん。その分、俺の方が疲れるんだってことは分かってくれよ」

「仕事と育児は比べるものじゃない。それに夫婦である以上、対等だと思うし、お互いを思い合って助け合うべきだと思う」

「確かに出産は痛かっただろうけど、それだけだろ。退院後の入院中は、赤ちゃんのお世話だけして、あとは上げ膳据え膳だったじゃん。いいよな」

「交通事故にあって全治二か月レベルの怪我と同じくらいのダメージを負ってるんだよ」

「でも育休申請して基本家にいるんだから、朝から仕事に行ってる俺と違って、だらだらできるじゃん」

「できるわけないでしょ。赤ちゃんのお世話は二十四時間なんだよ」

「気張りすぎなんだって。もっと気楽にさ」

「何があるかも分からないのに、目なんか離せないよ」

「子供なんて勝手に育つだろ」

「そんなわけないでしょ。ほぼ飲まず食わずの育児をしてきた結果、陸も知っての通り入院になったじゃない」

「それはお前が病弱すぎただけだろ」

「陸はしっかりご飯を食べて、お風呂にも入って、しっかり睡眠も取ってたもんね」

「そうだろ。だからお前の体調管理不足なんだよ」

「うん。誰のおかげでそんな生活ができたと思ってるの?」

「えっと、それはご飯もお風呂も私が準備したからだよね。夜寝れるのだって、私が夜泣きの対応をしてるから」

「ああ、ありがとうって言えばいいのか?」

「違う。毎日ケーキでも買えばよかったのか?」

「そういうことじゃない。呆れたわ」

「じゃあ俺は何をすればよかったんだよ」

「陸、父親の資格ないよ」

「待って、待って。これからちゃんと勉強するからさ。だから帰ってきてくれよ」

「帰るつもりはありません」

翌朝。

「週一先輩、おはようございます。早朝からすみません」

「おはよう。朝からどうしたの?」

「週一先輩の奥さんに頼めないですかね? 俺の嫁に帰ってくるよう言って欲しいんです」

「ごめんね。それは無理」

「何ですか? 俺、後輩でお隣さんなんだから、助けてくださいよ」

「俺たちがそこまで関わる理由はあるかな?」

「俺、礼ならするんで」

「君の家庭のことだよね。可愛い後輩のこと助けたいと思わないんすか?」

「今までの話を聞いて、僕が口出すことではないと思ってた」

「龍星を見たんだから、関係あるでしょう」

「確かに面倒は見たよ。改めて聞くけど、先輩に自分の子を押し付けたことはどう思ってるの?」

「ありがたいと思ってますよ。次、先輩が困ってたら俺だって何かしますから」

「あ、そう。じゃあ、うちの祖母が骨折して、もう介護状態なんだ」

「それは大変ですね」

「しばらく預けていいかな」

「え、会社の後輩でお隣さんってだけで、預けてもいいんだよね。だったら頼むよ。俺も妻も忙しいんだ」

「それはちょっと」

「結局君は、面倒なことがやりたくないだけ。助け合おうとか、そういう気持ちが皆無なんだよ」

「そんなことありません」

「じゃあ、なんで奥さんが出て行ったんだ?」

「あいつのわがままでしょ」

「おそらく一日話しても、何も伝わらないだろうね。痛い目に会って気づくしかない」

「嫌です。それを回避したいから相談してるんでしょう」

「生きてる世界が違う。俺の言葉が理解できないだろう」

「そんなこと言わないで、助けてくださいよ。俺、一人ぼっちで孤独なんすよ」

「そう言われても、よその家庭のことだからね。じゃ、僕はこれから出勤だから。遅刻しないようにね」

一週間後。

「なあ、今飲みから帰ったら弁護士から書類が届いてたんだけど、これどういうこと?」

「内容の通りです。離婚について、弁護士に代理人になってもらいました。今後、私への連絡は一切しないようにお願いします」

「いやいや、離婚の話くらい、人同士でしようや」

「あなたでは話にならないから、弁護士に頼んだんです。あと、これまで受けてきた精神的苦痛に対して、百万円の慰謝料を請求します」

「百万? 高すぎだろ。俺、何もしてないじゃん」

「そう。何もしなかったのが陸の罪だよ。無視ってのは、心をえぐられるの。話しかけても、言葉が宙に浮いて届かないのが、どれだけ苦痛かわかる?」

「納得いかねえ。絶対に分かれないからな。離婚したら、誰が俺の世話するんだ?」

「自分のことなんだから、自分でやりなよ」

「こんなの結婚詐欺だ」

「は?」

「龍星が生まれる前はおかずが三品もあったのに、生まれた後は一品だけ。俺を騙したのはお前だろ」

「そりゃ、私一人で赤ちゃんのお世話してたら、三品も作る時間なんかないよ。洗濯も掃除も、家のことは全部さやがやってくれてたのに、生まれた途端『お前もやれ』なんて、ひどくないか?」

「私は一人しかいないし、手も二本しかないのよ」

「俺への愛情はないのか?」

「ないから、離婚したいって言ってるんじゃない? いい加減理解してくれる?」

「だったらせめて、龍星には合わせろ。俺は父親だ。会う権利はあるはず」

「普通はね。でも、陸には合わせられない」

「なんで?」

「育児の実績なし。あるのは私への精神攻撃。何より、まだ乳児で環境変化に弱いから、ちょいちょい連れ出して陸に合わせられないの」

「俺、変わるから。だから離婚はしないでくれよ」

「もう遅いよ。今までだって何度も注意した。でも、陸が変わることは一切なかったよね」

「出産して変わっちまったな」

「変わらなきゃ、子供は育てられないよ。私はもう陸の妻じゃなくて、母親として生きるから。だから、私たちとの関係はもうおしまい。今後は何か言いたいことがあれば、弁護士を通してください」

「なんでこんなひどいことするんだよ。LINEだってずっと無視してたよな。返事がなくて、どれだけ辛かったか分かるか?」

「それが私が受けたよ。よかったね。これで永遠に無視できるよ」

「お願いだ。無視しないでくれよ」

「陸に言われた『話しかけるな』って言葉。これからも守り続けるね。さようなら」

その後、陸が勤めている会社でも、妻に逃げられた夫だという噂が流れ、居づらくなった陸は退職したそうです。その後、私の母を突き飛ばした件で警察から連絡があり、書類送検され、執行猶予つき懲役二年の判決となりました。人のことで文句があるらしく、弁護士に何度も連絡が来ているそうです。私の方にもLINEを送っているそうですが、ブロックしているので、一体何を送っているのやら。さらに実家にも何度も足を運ぶので、警察に相談しました。警察から警告を受けるも、必要な行為をやめず、執行猶予中のつきまといのため実刑となりました。両親は愚か、親族誰も面会に来ず、みんなから無視されてるそうな。まさに因果応報ですね。

私は子供が一歳になったのを機に職場復帰しました。最近、龍星は言葉を覚え始め、私を「ママ」と呼んでくれます。これからもたくさんお話をしていきたいと思います。

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