「母さんのどこを尊敬できるんだ?」——反抗期だと思っていた20歳の息子が、夫の浮気を笑いながら祝福した日のこと。私は夫の口座から消えた100万円を問い詰め、証拠のボイスレコーダーを突きつけて離婚を切り出した。なのに、息子は父の味方につき、「若くて美人な新しい女の方がマシ」と私に言い放った。実家に追い出されるように帰った私は、息子にも夫にも捨てられたと思った。そして数ヶ月後、息子から一本の電話…

「母さんのどこを尊敬できるんだ?」——反抗期だと思っていた20歳の息子が、夫の浮気を笑いながら祝福した日のこと。私は夫の口座から消えた100万円を問い詰め、証拠のボイスレコーダーを突きつけて離婚を切り出した。なのに、息子は父の味方につき、「若くて美人な新しい女の方がマシ」と私に言い放った。実家に追い出されるように帰った私は、息子にも夫にも捨てられたと思った。そして数ヶ月後、息子から一本の電話...

夫の口座から約100万円が消えているのを見つけたのは、月末の家計簿を締めているときだった。

「これは何に使ったの?」

問い詰めると、夫はあからさまに動揺した。

「仕事の付き合いだよ」

「仕事の付き合いでホテルに何度も行くの? あなた、浮気してるでしょ」

「そんなわけない!」

「証拠はあるの。ホテルの出入りが確認できてる。あと、あなたの鞄にボイスレコーダーを仕込んでおいたの。楽しそうな声がたくさん録れてたわ」

夫の顔色が変わった。言い訳も虚しく、彼はようやく観念したように頭を下げた。

「…悪かった。許してくれ」

「許さない」

「でも、お前にも原因があると思うぞ」

「例えば?」

「年を取ったじゃないか」

「あんたも取ってるでしょ。20年前から何も変わってないって言えるの?」

「…そうだ。だから若い子に走ったんだ」

私は呆れて笑うしかなかった。

「じゃあ、離婚しましょう。私はこれから自分の人生を生きるわ」

「ふざけるな! 一方的に終わるなんて許さないぞ」

「浮気した分際で何言ってるの?」

夫は最後にこう提案した。

「こうしないか。お互い自由にしながら結婚生活を続けるんだ」

「何のために?」

「世間体とか、子供のためとか…」

「りん太郎はもう20歳よ。もう大人じゃない。私は世間なんて気にしない」

そう言って、私は実家に帰ることにした。ところが、息子の反応が私の予想を覆した。

「お母さん、しばらく実家に帰るから」

「なんで?」

「お父さんに聞いて」

「まさか、浮気してたとか?」

「あなたももう大人だから隠さなくてもいいわ。その通りよ」

すると、息子は笑い出した。

「はぁ。親父、やるじゃん」

「…何言ってるの?」

「だって、これが男の甲斐性ってやつだろ? 浮気もできないダサい男よりマシじゃん」

「あなた、お父さんの味方なの?」

「そりゃそうだろ。力がある父さんの方がかっこいいし。父さんが浮気したのは、母さんが魅力ないからだろうしな。専業主婦で家にいるだけの母さんのどこを尊敬できるんだ?」

私は言葉を失った。反抗期が長引いているだけだと思っていた。でも、どうやら本心らしい。

「母さんがいつまで経っても説教臭くてだるいんだよ」

「あなたが20過ぎてもしっかりしないからでしょ!」

「そういうとこだよ。父さんみたいにほっといてくれたらいいのに」

数日後、息子は父にこう言ったらしい。

「父さん、浮気したんだって? 相手の女に会わせてよ。若くて美人なら俺は賛成だから」

夫は嬉しそうに息子の肩を叩いた。

「やっぱりお前は俺の息子だな。分かってくれて嬉しいよ」

「母さんも実家に帰ったし、このまま離婚して新しい女と結婚すればいいじゃん」

「まあ、そうなるだろうな。次の週末に家に呼んでいいか?」

「最高じゃん。俺も会うの楽しみにしてるよ」

私は息子に家を出る前に言われた言葉を思い出す。

「母さん、もういい歳なんだから、素直に別れてやれば?」

そんな息子の態度に、私は深く傷ついた。夫にも息子にも必要とされていないのだと、初めて思い知らされた気持ちだった。

数週間後、夫の浮気相手・野々花さんが家に来るようになり、そのまま彼女は家に居座ることになった。まだ離婚も成立していないのに。

私は弁護士を通して、財産分与と慰謝料を請求した。すると、息子から電話があった。

「母さん、勘弁してくれよ。生活費の口座が空っぽで、俺の学費も出せないって親父が困ってるんだけど」

「りん太郎はあなたを選んだんでしょ? だったら、その人のところで卒業させてもらいなさい。もう私はあなたたちの面倒は見ないわ」

「それはないだろ! ひどすぎるよ!」

「ひどいのはあなたの方よ。あんな言葉をよく吐けたわね。私はあなたを育てるためにお金を節約して、生活費をやりくりしてきたのよ。あなたが父の味方をするなら、自分で責任を取りなさい」

息子は激昂した。

「もういい! 母さんなんて大っ嫌いだ!」

そう言って電話を切った。そして私は、息子から二度と連絡が来ることはないと思った。

それから数日後、私は実家で両親と穏やかな時間を過ごしていた。そんなとき、思いがけず息子から電話がかかってきた。

「母さん…俺も家を出たよ。というか、追い出された」

「…え? どういうこと?」

「とりあえず、父さんと野々花さんの結婚は阻止しておいた」

「待って。ちゃんと説明して」

息子はゆっくりと話し始めた。

「俺さ、父さんが浮気してるの、ずっと気づいてたんだよね」

「…そうなの?」

「母さんが出ていって、父さんだけが幸せになるのはどう考えても許せないと思ったんだ。だから、家に残って演技した。父さんや野々花さんの味方をするふりをして、本性を暴くために」

「あの言葉は…全部、演技だったの?」

「母さんにひどいことを言って、本気で怒らせて離れてもらう必要があったんだ。母さんが俺を離れてくれないと、あっちに俺が残る意味がなかったから」

「あなた…怖い子ね。でも、言い過ぎたわよ。あんなこと、よく言えたわね」

「ごめん。…でも、これで父さんとあの女の本性を知れたし、結婚も止めたんだ。あの女は俺を誘惑してきたんだよ。若い体の方がいいって言い寄ってきたのは、あの女の方からだったんだ」

「は? まさか…」

「ホテルに行った写真も、探偵が撮ったものらしい。スナックのママが、父さんの行きつけに来る客から頼まれてたって言ってた」

私はしばらく言葉が出なかった。

「母さん、今どこにいるの? じいちゃんち?」

「うん、そうだけど…」

「実は今、もうそっちに向かってるんだ。直接話したくて」

「…分かった。お肉を買っておくわ」

息子が実家に着いたとき、私は久しぶりに彼の顔を見て、笑顔がこぼれた。

「りん太郎、よく来たね。大学は遠くなるけど、通える?」

「うん。母さん、俺さ、ずっとおかしいと思ってたんだ。母さんが毎日遅くまで家のことをしてるのに、父さんが感謝の言葉をかけてるのを見たことがなかったから」

「……あなた、子供の頃から、そう思ってたの?」

「ああ。でも、俺も次第に『ありがとう』すら言えなくなってた。恥ずかしいというか…言わなくても分かるだろうって思ってた。反抗期が長引いたんじゃないんだ。感謝してるのに口に出せない自分が嫌で、母さんと距離を取ろうとしてただけなんだよ」

私は彼の頭を撫でた。

「もういいのよ。あなたが普通に喋ってくれるだけで、私は十分幸せよ。いろいろとありがとう、そしてごめんね」

「じゃあ、これからは一緒に暮らさない?」

「当たり前でしょ。子供にご飯を食べさせない親がどこにいるの。大学もやめなくていいわ。こっちにはお金があるんだから」

「そうだった。俺も面白い話が山ほどあるんだ。楽しみにしてて」

私たちは久しぶりに、笑いながら食卓を囲んだ。

数年後、夫はボロボロの姿で私の実家を訪ねてきた。

「…とにかく、離婚を取り消してくれないか。もう何もかも失った。お前も、息子も、あの女も…。償いはする。慰謝料も払うし、家事もできる限り手伝う」

私はため息をついた。

「具体策がゼロね。『できる限り』『つもり』…これのどこを信用すればいいの?」

「頼むよ。俺はボロボロなんだ」

「私に愚痴を聞いてる暇はないの。午後から息子と出かける予定なんだから」

「…息子は、お前のもとにいるのか。許してやったのか?」

「まあ、そんなところね」

「だったら、俺のことも…」

「それは無理よ。りん太郎はあなたを裏切ってないけど、あなたは私を傷つけただけじゃない。家を追い出して、浮気相手と住んで、息子にまで酷いことを言った。あなたは私の敵でしかなかったの」

「でも、あいつだって…」

「あれは全部、私のためだったの。あの子は私を守るために、自分を犠牲にしてあなたの味方をするふりをしたのよ。あなたにはそれが理解できないでしょう? 今さら戻ってこようとか、虫が良すぎるわ」

夫は顔を真っ青にして言った。

「…あの女は、結婚詐欺師だったんだ。複数の男から金を引き出してた」

「知ってるわ。りん太郎から聞いたから。あなたがスナックのママに相談した探偵が、あの女の正体を暴いたんでしょ? 私も弁護士を通してあの女から慰謝料を取ったわ」

「お前には…俺には、何も残ってないのか?」

「財産分与で、家と土地は売却したわ。あなたが選んだ道の結果よ。私は今、実家で両親と息子と4人で幸せに暮らしてる。それがすべてよ」

夫は何も言えずにうつむいた。

「…じゃあな」

そう言って立ち去る夫の姿を、私は何の感情もなく見送った。

あれから数年。私は実家で両親と息子との穏やかな日々を取り戻している。財産分与のおかげで生活費の心配もなく、りん太郎と笑い合える毎日が戻ってきた。あの息子は今では別人のように素直で、まっすぐに感謝を伝えてくれる立派な青年になった。

夫の存在は、私にとっては重荷そのものだったのだろう。今は驚くほど心が軽い。不器用だった息子が社会に出るまで、あと少し。この貴重な時間を大切に、一日一日を過ごしていこうと思う。

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